■豆盆栽 苔のはり方

f:id:tokyobonsai:20210904213950j:plain

 盆栽の世界では鉢土の表面に苔を敷くことがあります。これは苔をのせて美しくすることが主眼でなく、まだ新しい植え土が見えないようにするカムフラージュという意味合いでの使用です。

 盆栽で使われる赤玉土は粒状になっていて、古くなると表面は劣化して崩れて、あるいは汚れて、その粒が見えにくくなっていきますが、新しいうちはその粒がはっきりしています。

 盆栽は大きく育つはずの樹を小さく育てて不思議なスケール感を楽しむことができ、かつ、そのスケール感の妙を入口とした没入感が生まれます。卓などはその舞台装置とも言えます。

 私たち盆栽人は自分の樹を皆さんに「見ていただく」にあたり、その没入感を邪魔しないように、飾る前にはきれいに掃除するよう心掛け、現実に引き戻すような要素をなるべく排除します。

 展示会で樹を飾り、皆さんにそこから様々な空想をして楽しんでいただこうとしている舞台で鉢土のこの粒がはっきりしている状態では、現実のスケール感が生まれ、生活に引き戻されてしまうと思います。

 私はこういった理由で、植え付けて間もないなど、新しい土で展示会に飾る必要のある鉢には苔をはります。見ていただくにあたって没入感の邪魔をするような、小さな世界に入った人を現実に引き戻させるようなものはなるべく隠しておきたいのです。

 盆栽に苔をはるには、例えば撒き苔のように、カットした緑色の苔を土の表面に撒いておくやり方もありますが、これは少し時間がかかることに加えて不安定な出来でもあり、極小の世界ではちょっとアテにできません。
豆盆栽を飾るにあたっては、私はシート状の苔を採取できるよう育てそれをはりつける形が一番鑑賞の邪魔をしない自然さを作れると思います。


 今回は、私のような小さな盆栽の愛好家が苔はり作業をどうやっているか、これについて動画を交えて書いてみようと思います。


 まず、ひと月から数週間ほど前位から、適当な鉢、例えば苗木の植わった鉢などで苔の伸びている鉢を集め、這性のものは外し、苔を草刈りのようにハサミで短く刈り込みます。緑の部分がなくなり黒くなるまでやって良いです。

 切り戻して数週間後また緑が復活した時には丈の短く、形が崩れにくい苔の絨毯ができてきます。それらから、豆盆栽のサイズで根張りを見せつつ土を隠す用途に良い、丈の短い、密集したものを選びます。

 この作業は時期をずらしていくつかやっておくと尚良いです。はる苔はきめ細かいものを選び、這性のものを避けます。

f:id:tokyobonsai:20210904184011j:plain

 こういった風に短い丈の苔を育てておくわけです。ここに鋏を入れ、表面のきれいなところを薄く切り取ると苔のシートが出来ます。まずは動画で見ていただきましょう。

 縦の組織の面的な集合体である苔は、丈の長い状態でハサミで切り取ってもパラパラと崩れやすいのです。しかし事前に切り戻しをした短い丈の苔のシートは薄く、かつ、ばらけにくい。ただ、雑に扱うとやはりばらけます。なので切り取ったらまず形が崩れないように手のひらへ乗せ、かたまりを一度指でやさしく中央へ集めます。

 こうして鉢土の表面に張っていくわけですが、この時になるべく盆栽の根張りを隠さず、出してあげたいのです。根張りというのは極小の盆栽でも違わず、樹が自分で力強く立って生きている感を伝えるものですから、それを隠さないように、根張りと根張りの間に苔を挟ませる感じで貼っておきたいです。狭いところには苔のシートを縮めて小さくして挟み込みます。


 こうして仕上がった動画の樹は10月に公開される第45回東京支部展の写真帳に出展します。これは会員さん以外にも下旬までには東京支部のHP小品盆栽.TOKYO上で一般公開しますので、もしよろしければその際にご覧になってください。

f:id:tokyobonsai:20210809200140p:plain

 

【補足】

 苔は繁茂し過ぎると樹にとって良くないことが多く起こります。苔が丈高く生える環境では根が痛みがちで、傷んだ根の量を補うために樹は残ったエネルギーを消費して地際の苔内部へ不定根を伸ばします。これを考えずに切ってしまうと他に生きている根が少ない分、樹にとって大きなダメージ、あるいはトドメとなります。

 また、這い性の苔は乾いて水を弾いて気付かぬうちに水切れをも誘発します。ちょうど乾いた古雑巾が水を弾くようにです。

 私も繁茂しないように頑張ってはいますが、鉢数が多い故、なかなかすべてを十分にとはいきません。私が会の勉強会に樹を持って行ったり、webに画像をあげたりする目的のひとつは、怠けがちな自分にそうやって半強制的に掃除や手入れを課す、ということでもあったりします。お恥ずかしいながら。