■思い出 光陰や夫婦の間に秋刀魚置く

東京支部に根本さんというベテランの先輩がいました。実際に例会にいらしたりはしなかったのでそれほど深いお付き合いをさせていただくことはありませんでしたが、樹を飾るのがお好きなようで、展示会の会場でよくお会いし、見た目には、時に真っ赤なシャツを着たり少しやんちゃな雰囲気がありつつも、樹は優しい姿の雑木が多いという印象の先輩でした。

 

体調不良の噂は随分前から伺っていましたが、数年前に亡くなり、その時私はまだ会の責任者として具体的に名簿から名前を消さなくてはならない立場になったばかりでした。実際の交流は少ないとはいえ、入会間もない時から飾りを拝見し、その手の入り過ぎないやさしい姿に感動した樹などもあり、陰ながら慕っていたそんな先輩の名前を消さなくてはならないことが実際の仕事としてあることをその時は嘆いたものでした。

 

そんな根本さんの席飾り。2015年9月の第39回東京支部展からです。

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左より メギ 飾上ガマズミ 針蔓柾木 楓

 

私はこの時短冊にある歌が気になっていたんです。

「光陰や夫婦の間に秋刀魚置く」

嗜みに欠ける私なりに味わってみようと想像して、年を召した夫婦の、食が細くなって食事の秋刀魚も夫婦二人1枚で済む、寂しいような、暖かいような、そんな光景を勝手に歌の中に感じました。

 

当然そこまで想像して楽しませていただいたら、今度は実際の席主の意図はどんななのか、是非とも伺ってみたくなるものです。2015年といえばこの時私はまだ入会5年目。まだ交流の少ない自分の親ほどの歳の先輩でしたが臆せず尋ねてみました。すると根本さんは照れたようにぼかしながら、じつは奥さんが書いたものを借りて飾らせてもらっているので詳しい内容はわからないんだという返答。つまり、飾る樹は用意したけど何かこう、秋っぽい内容の短冊なんか、ないかねお母さん?的な流れだったということらしいのです。

なんだい、秋刀魚だけじゃなくて、盆栽飾りまで夫婦でシェアって、もう、どこまで温かいんだよ!あー畜生、何でもいいからシェアしてー!

 

光陰やー!

光陰やー!!