■ズミ Toringo Crabapple

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 黄実のズミ。僕のズミ。

 私が東京支部に入会したての頃、実ものが大好きで小さな鉢に黄色い実をちょろっとだけ付けた細幹の豆盆栽を飾る先輩がいました。

 記憶に残るのは、70歳にもなる老人が枝の切れ端のような細くて小さい樹を、これまた可愛らしい豆鉢に入れて愛でている滑稽さと、しかしその樹を近くで見ると、小さいなりに足元には古さも感じることができる、その得体の知れなさ。

 私がそれまで知っていた盆栽とは違う類の盆栽の世界があるんだと感じたものでした。

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 このズミはその先輩から譲っていただいた樹の末裔。

 幹1本、枝1本で、実がひとつだけ。棚の中で勝手にこんな姿になっていましたが、気が付けば記憶の中のその先輩の樹もこんなだったような気がして、それでちょっとなつかしくなる。

 

 ところで、私は東京支部で盆栽の技術的なもの以外に、文化的なものも多く教わりました。例えば「木守柿(きもりがき)」とか「木守り(きまもり)」と言われる習慣もそうです。

 冬の季語にもなっていますが、収穫を終えた柿の木のてっぺんにひとつだけ残された実やその習慣を言い、今年の実成りに感謝し、また来年もよく実るよう実をひとつ残し神様に願うわけです。これは同時に鳥たちに残しておいてやろうという心遣いでもあります。

 晩秋、冬の風情として、渋好みな盆栽飾りの景色にぴったりです。

 ただ、盆栽人の気持ちを代弁すれば、逆に鳥たちに心遣いを求めたい気持ちも。せっかく飾ろうとしていた実成りの樹をたった一度のうっかりで全部食べられた経験、あるかたも多いと思います。

 少しは残せ、と。