■モミジ(紅千鳥) Japanese Maple

 今年(2020年)の春に取り木した紅千鳥もみじの素材木の芽掻きを中心とした作業動画です。

 芽掻き自体はモミジ全般に必要な作業で、別に紅千鳥だから必要な作業というわけじゃありませんが、せっかくなので紅千鳥という品種にもフォーカスを当ててみたいと思います。

 

紅千鳥モミジについて

1.性質

 春の芽吹きがとても美しい品種です。夜の闇の中で浮かびあがるような、他のモミジとは違う鮮やかさを持っています。
 やまもみじと比べて若干樹勢が弱いという話をよく耳にしますが、実際、そういった印象で良いかと思います。枯れやすいというより、おとなしい、という感じでしょうか。

 下に記すように繁殖に若干の難があるせいか、良い素材木はなかなか出回りませんので、親となる樹を見付けて自分で仕立てるのが一番です。


2.繁殖

1)取り木

 増やす際は取り木が良いと思います。取り木でしたら発根の数も悪くないです。
この素材のように、大きな親からの取り木素材というのは、形は事前に仕立てておくので仕上がりは早いです。しかし大きな樹から作った分、枝がどうしてもごつくなってしまいます。
 繊細な枝を追求するのなら、枝先は小鉢で持ち込みながら作るのが、私的にはベストに思えます。


2)挿し木

 挿し木はあまり成績がよくありません。
 例えば、春に勢いをつけて固まった新梢という比較的成績の良い挿し穂でも、発根は10本に良くてせいぜい1~3本くらいだと思います。

 

補足1)栄養繁殖

 取り木や挿し木の話が出たついでに、栄養繁殖について少し。取り木や挿し木の話になると適期ばかりを気にする方もいらっしゃいます。それも大切ですが、大前提として、細かい時期という条件以前に、そこに栄養が行き届き充実しているかどうかを重要視します。発根の頼りない樹種などは前の年から肥料を与え、よく陽に当て、芽先に力を乗せておきます。

 

 
3.芽掻き

 さて、動画最初の画像では数か所同時に取り木をかけていますが、すべて発根したので、もうそれぞれを切り離し、プラポットへ移しています。この動画ではその中の1鉢を持ち込んで、モミジの年内最後の作業、「芽掻き」をやっています。

 芽掻きの目的としては、不要な芽吹きを最初の段階から掻き取ってしまうことで樹の肌を美しく保つということです。不要な芽を放置して不要な枝になるまで育ててしまうと、それを抜く際に傷が残ってしまいます。また、胴吹き芽が吹く場所によっては不要な太りを与えてしまい、枝幹の繊細さに影響します。
 繊細さを主眼としたモミジの盆栽は、幹の傷はなるべく避けて仕立てるべきものです。そのためにも、将来の傷や、コブなどの余計な太りの基になる不要な芽はなるべく早い段階で掻き取ってしまうことが大切です。これが「芽掻き」で、春から夏の活動期にも適宜おこなう作業ですが、特に、来春に備え現れた芽の多い秋の終わりには必須の作業です。

 モミジを鑑賞するポイントは葉だけでなく、幹肌もそのひとつです。適切な芽掻きできれいな幹肌を目指したいものです。


4.どんな芽が不要か?

 ではどんな芽が不要か、という点になりますが、初心者の方にとってはまず忌枝を育てないということがまずひとつの指標になると思います。かんぬき枝、車枝、立ち枝、重なり枝、突き出し枝、などです。
 また、樹形や「流れ」を考える上で枝を欲しない箇所というのも生まれます。「曲の内側」や「二又になった枝の分岐部分」というのがその一例です。

 これらはあくまでも基本で、どこまで徹底するかどうかは塩梅です。経験を積む中で、たくさんの樹を間近で見て、自分なりの塩梅を見付けてください。


補足2)枝を基から抜く際のハサミ

 動画でちょっと変なハサミの使い方をしている部分、気になる方がいらっしゃるかも知れませんので触れておきます。昔、ある業者さんから学んだケヤキのハサミの使い方を私はモミジに応用しています。
 モミジの枝を基から抜くような時、小さい盆栽はその傷の肉巻きの盛り上がりが原因でその部分が使い物にならなくなる場合があります。そうなるともうサイズを大きくする以外対応しようがありません。

 そうしないために、ハサミの刃を枝の木質に半分くらいまで噛ませて、完全に切らずに、噛ませたまま根側へ捻って、木質ごと巻き込む形で樹皮をめくり下ろす。めくり下ろした部分は程よい所で止めて、ハサミで切る。こうすることでふくらみの素となる木質を取り除き、傷跡が盛り上がって残ることを避けています。
 そこまでやる方は少ないと思いますが、参考までに。

 ちなみに、動画に映っているように、私は癒合材を使わず木工用ボンドを使っています。

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