■杉本佐七氏と中村是好氏 台湾荻

 私たち日本小品盆栽協会は趣味者が運営するアマチュアの会で、会の設立における中心人物には俳優として映画・舞台に活躍した中村是好さん(1900 - 1989年)がいます。

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(1962年1月発行 「盆栽」誌より)

 私が日本小品盆栽協会の東京支部に入会した際はまだ東京支部の初代支部長宝田さんが例会にいらしていて、この会には是好さんに憧れて入ったという話を聞かせていただきました。他の方からも是好さんに憧れて盆栽を始めたというお話は多く伺い、私は実に愛された方だったんだろうなと感じたものです。

 私が鉢作りの手ほどきを受けた一蒼さんも駆け出しの頃、自分の鉢を展示会で販売する際に売れ残ったら全部買い取ると是好さんから励まされた話を懐かしそうにしてくれたことがあります。

 私が盆栽を教わった土屋さんからは会の勉強会で、しっかりしたものでない、ちょっとぬけているからこそ面白い、そういう「是好ism」と呼んだ自然な樹作りをこの会の宝として引き継いで欲しいと言われました。

 そうやって多くの方から慕われた中村是好さん。その是好さんの盆栽の師匠が、浅草で舞台装置製作に60年以上携わった杉本佐七さん(1885年 -?年 )。私たちの会日本小品盆栽協会はさかのぼるとその前を日本小品盆栽会といい、初代会長が中村是好さんになるのですが、その前身の東京アマチュア盆栽愛好会の会長は豆盆栽作りの名人として名高かった杉本佐七さんになります。杉本佐七さんについては例えば土屋さんも「我々には神様みたいな人」と言っていましたが、ご存知の世代の方にとってみるとやはり伝説みたいな存在のようです。つまり「小品盆栽界の桐生一馬」というわけです。←?

 

 ところで土屋さんのところにはシウマイの醤油入れ「ひょうちゃん」に植わった台湾荻があります。

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 これは中村是好さんが最晩年まで手元に残した遺愛のひと鉢で、植えてある台湾荻は当時杉本佐七さんが育てていた、いわゆる「杉本佐七性」の台湾荻です。

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タイワンオギ  鉢 しょうゆ入

本協会元会長俳優中村是好先生遺愛のお品。植草は当協会前称「東京アマチュア盆栽愛好会」初代会長杉本佐七性のタイワンオギで、最晩年までお手元に置いていたものです。
当時杉本性と言われ大切にされていたタイワンオギです。鉢は某社しゅうまいのひさご形しょうゆ入れ後穴。当時鉢が少なく食器類を穴をあけて使いました。

 

 お師匠さんとお弟子さんがひと鉢になり、それを後輩の土屋さんが大切に育てているわけですね。

 

 そしてこちらは私の台湾荻。うちには是好さんのひょうちゃん鉢はないので、自作の餅巾着を模した鉢へ。

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 当然杉本佐七性の台湾荻はその存在を知ってすぐに私からお願いしてうちでも引き継がせていただいています。そしてジャックナイフな私が急に天国への階段を駆け昇ってしまってもこれが途絶えないように、既に東京支部の他の会員さんにも一部預けています。

 ただの草をそんな大事に何十年もかけて引き継ぐなんて実に愚かですが、そういう愚かさが遊びを味わい深いものに変えるという面もあるので困ります。

 

※台湾荻(たいわんおぎ) 今は小さな盆栽の世界では特にほとんど使われない草になりますが、日陰で育ててその軸を伸ばし長く枝垂れさせ、通常夏飾りとして高卓に載せて飾り、涼をたのしみます。

 

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