■マユミと弓の話

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 まゆみ。数年前に自分で実生したものだが、幼い頃からすぐ花を咲かせ、タネのつかない小さな実が成りやすい。雌雄異株とされるまゆみだが、最近は「雌しべが短い花をつける個体がありそれが結実しにくい傾向があるだけで、雌雄同株」という考え方もあるようだ。

 

 昔、樹木に興味を持ち始めた際、「マユミ」という名は「真弓」で、昔、高級な弓の材として使われたから、ということをあちこちで読みました。それを当時知人女性に得意げに話すと、その女性は「父も同じことを言っていた」と、ちょっと呆れた顔をしたものです。
 ただ、それ以上の詳しい情報をその後何かしらの媒体で知ることもないまま過ぎ、正直、逆にストレート過ぎるその命名に疑いを持ってもいました。今ここに告白します。そんなモヤモヤをずっと抱えて生きてきたこと、私の笑顔の奥にはそんな闇が潜んでいたこと。一体誰がそれに気付いたでしょうか。

 

 さて、先日弓の仕組みと歴史について詳しく解説しているYouTubeチャンネルを拝見してふとそれを思い出し、再び少し調べてみました。

 マユミを材として作られる弓は単弓(丸木弓)、つまり性能強化のために複数の材を張り合わせたりせず、ただ木を削って作っただけの弓で、これが日本で縄文・弥生の頃から使われていたらしい。

 当時使われていた材として、イチイ、イヌガヤ、イヌマキの針葉樹、ハゼ、クワ、マユミ、ケヤキなどの広葉樹他、実に多種様々挙げられています。これらには実用以外に儀式の用途を目的とするものも当然含まれるのでしょう。
 しかしざっと調べてみても、マユミを優れた材とした記述は見当たらない。

 先述のYouTubeチャンネルの中で(6:44)、寒冷地の樹種イチイを材とした単弓の使用地域としてイングランド、北欧のヴァイキングアイヌ民族を挙げているが、つまり、その地域で取れる材が様々使われたということで、その中にはイチイやイヌガヤのように物理的に優れた材とされる木も使われれば、ヤナギのように、加工はしやすいが強度的に大丈夫か?というものまで使われたと。
 しかしやっぱり、単弓(丸木弓)における「マユミの材最強説」は園芸関係の記事でしか見ることができません。

 

 そう考えるとなんだか騙されているような感覚になってしまうのが人の情ってところですが、ここまで勝手に言っておいてなんですが、どうかそこは許してあげてください。
 私は名を「誠」と言います。言葉が成ると書いて「誠」です。でも、けっこう適当なことを言って過ごしてきています。自作鉢の初期落款は「誠」でしたがすぐに「成る」を取って「言」に変えたのは、その重さに耐えられなかったというのが理由なのです。名前が重すぎるって、あるんです。実は「マユミは弓材としてまあまあ良くて、イチイの次の次の次くらいに良いんです!」ってなったとしても、そのがっかり感、真弓(マユミ)に罪はないのです。

 その意図はなくとも、なんとなくマユミにショーンKさんばりに詐称疑惑のイメージがついてしまうのもかわいそうですから、今後あまりマユミと弓を絡めて語らないというあたりで、私としては長い疑問に対する一応の決着としたいと思います。

 

 マユミは、可愛らしい実をつける、野趣に富んだ素晴らしい盆栽樹種です。

 

 

参考資料

【ゆっくり解説】弓矢の歴史と物理学 ロングボウ、和弓、コンパウンドボウ etc.

https://youtu.be/pk8c697z_hU

秋田県立博物館研究報告 中山遺跡出土の弓の用材について(PDF)

https://akihaku.jp/publication/report/17/aktpmrep17_017-020.pdf

・竹弓について|弓道具を知る|全日本弓道具協会

https://kyudogu.jp/yumi/3500.html