■盆栽鉢 Bonsai Pot

思い出の盆栽鉢

f:id:tokyobonsai:20210330001531j:plain

 私がまだ鉢作りを始めて間もない頃に作ったものです。私は日本小品盆栽協会東京支部に入会した年、先輩にあたる一蒼さんを先生として作陶を始めました。なので数年後自分の窯を持つまでは、私は成形だけして、焼成は伊豆に住む一蒼さんにお願いしていました。

f:id:tokyobonsai:20210330001624j:plain

 この鉢はまだ一蒼さんに焼いていただいている時代の鉢です。釉薬の名前は乳濁釉と言っていましたが、確か還元焼成で、若干黄色味がかった透明に極々部分的に赤や青の色味が浮かぶシンプルな釉で、私はこの釉がとても好きでした。

f:id:tokyobonsai:20210330001544j:plain

 落款もまだ「誠」の釘彫りです。初めての焼成の時のものは一蒼さんに呉須で「誠」と入れていただき、落款を入れるよう指導され、その次の焼成分から釘彫りの「誠」をしばらく使っていました。その頃のものです。

f:id:tokyobonsai:20210330001537j:plain

 何故こんな扇形の鉢を作ったかというと、当時九霞園さんのブログ記事で扱っていた古書の絵にこんなものがあったのです。

 そうしてこんな使いにくい形の鉢を私がどう使っていたかというと、スギナ(つくし)や雀の槍など、草を植えて、飾りのアクセントに使うことがほとんどでした。流れの受けとしてや、ムードメイカーとして、何気にけっこう活躍の場がありました。

f:id:tokyobonsai:20210330001732j:plain

スギナ(Field Horsetail) スズメノヤリ(Luzula capitata)

 今見ても、手前味噌ながら丁寧に作ってありますし、きれい過ぎないちょうど良い程度に手の跡が残っていますし、また薄作りで、そしてその場合年数が経つと入りがちなヒビもなく、当時の自分を褒めてあげたいくらいの仕上がりに思えます。そこにお気に入りだった釉がのっているわけで、はい、そんな思い出の鉢でした。

f:id:tokyobonsai:20210330001615j:plain

 昨年から中身不在の状態でしたが、今年またスギナを植えておきました。

 スギナは地下茎でよく増え、一度庭に生えると二度と追い出すことができないと恐れられるほどの存在ですが、鉢で育てるぶんには恐れる必要はありませんし、胞子を出すのは土筆(つくし)なのでそれはそれで出てきたら楽しいという。私の属する日本小品盆栽協会の発足時の中心メンバー、俳優の中村是好氏は土筆の盆栽を好んだそうです。

 私もいつかはこの鉢に土筆を成らせてみたいものです。